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2015.03.30

第14回 まさかの対局日程変更――王将戦第5局―― 

 渡辺明王将に郷田真隆九段が挑戦する第64期王将戦七番勝負。この原稿を書いている時点で互いに3勝3敗の五分となり、決着は第7局へともつれこんでいます。第1局における現代将棋を象徴する情報戦(第12回コラム参照)、第6局では土壇場で両者ともに駒の利きを見落とす錯覚をするなど、盤上での話題には事欠かかないシリーズとなっていますが、第5局では盤外においてもハプニングがありました。

対局前日の新潟港。高波が押し寄せているのが遠目にも確認できる。結局この日は出航できず。

 3月11日、午後。対局前日になって、関係者一行は新潟港で足止めされていました。目的地は佐渡。海を渡る必要があるのですが、あいにく外は暴風雪。本来乗る予定だった便は既に欠航が確定し、最終便が出るかどうかの勝負。知らせを待つ間、僕は外に撮影に向かいましたが、風が強すぎてもはや台風リポーター状態。

 午後2時半、一向に回復しない天気の前に、関係者は半ば諦めムード。そして、しばらくして最終便も欠航との知らせが入りました。この日は新潟市止まりとなり、対局スケジュールの変更も確実に。「明日も天気悪そうなんですけど」と心配する渡辺王将。もし翌日も佐渡に渡れなかった場合、対局の中止まで考えられます。結局雪は夜遅くまで降り続きました。
  翌日、大方の予想は良い方向に裏切られ、天候はやや回復。欠航も今のところなく、一行はチャンスとばかりに一路佐渡へ。11時ごろには無事対局場に到着しました。本来ならばとっくに対局が始まっているはずの時間ですが、前日の協議によって13時半から持ち時間7時間(本来は8時間)の変則規定で行うことが決定しています。
  両対局者にスケジュールの変更について伺ったところ「当日移動して対局するのは初めてなので、どうかなという感じ。でも幸いそこまで影響がない形で対局ができるので、いい将棋を指したい」と渡辺王将。対する郷田九段も「初めての経験なので気をもんだところはあるが、2日制は2日制なのであまり影響はないかと」と語り、ともに大した影響はないとの返答。

これがジェットフォイル。カーフェリーよりはるかに小さく、スピードも出る。写真は対局翌日のもので、悪天候の面影は全くない。

 

 今回一行が乗ったのは、ジェットフォイルと呼ばれる高速船。水中翼の揚力により海面から浮上して進むので、揺れにくく、また速度も速いという特徴があります。そのジェットフォイルを運用するのは、第5局協賛の佐渡汽船。佐渡汽船の方に、今回のことについて聞いてみました。
「例年は1~2月に時化ることが多く、今回のように3月に欠航というのは非常に珍しい。前夜祭の中止や関係各所との打ち合わせなどで苦心しました。」
 持ち時間7時間の2日制になったことに関しては「我々のレベルでは1時間の差がどう影響するかは分からないが、スピーチの際あまり変わらないと言って頂いたのでほっとしています。こちらとしては、対局者が精一杯戦えるよう務めます」と語ってくれました。
 さて、対局が始まりさえすれば、あとはいつも通り。対局2日目にはすっかりいい天気になり、先日までの悪天候が嘘のよう。嘘のようと言えば盤上に関しても同様で、まるで何事もなかったかのように本局も終盤まで均衡のとれた好勝負となりました。対局前の宣言通り、両対局者の集中力は盤外でのハプニングにも乱されることはなかったようです。

 当コラムは、二・三週に一度のペースで更新していく予定です。 また、皆様のご意見ご感想、取り上げてほしい題材などお待ちしております!お問い合わせメールフォームよりお送りください。
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